4/6の本の紹介(その1)に引き続きその2です。
若松英輔著『悲しみの秘義』文春文庫
「小さな宝に出会える小作品」 推薦者:水野治太郎
本書は、悲しみという心の働きが見せる奥深く秘められた真実を、言葉を視座にして明らかにしようと努めたエッセイ集である。
著者の若松さんは、推薦する私より30歳も若いが、すでに成熟しきった文学者・詩人・エッセイストといえる。本書末尾に収められた『解説』で、俵万智は著者を評して「見失いがちな『人生を俯瞰する視点』を宝石のような言葉 が思い出させてくれる」と批評した。
本書を推薦する筆者は、グリーフケアの専門家である。タイトルを見た瞬間に、読む前から、これこそグルーフケアに志す人々の必読書であるとの予感が働いた。読んだ後には、今現に悲痛・苦痛を味わっている人々の、またコロナウイルス禍で自宅内に閉じ込められ鬱積したこころを抱える人々の愛読書になるべきだと確信した。
本書を通じて知る人生を俯瞰する視点の一つは、本書カバーの裏面にもある 「人生には悲しみを通じてしか開かれない扉がある」「人生の困難に直面したと き私たちは、もがき、苦しみ、うめく。そんなとき人は、無意識に言葉を探す。 わらをもつかむ思いで探すのは言葉なのである」
悲嘆する人の傍らにあって、援助できるサポーターは、ひたすら聴くことに努める謙虚さと、さらに、どこまでも悲嘆者への畏敬の念を保持できる者のみである。悲しみ・苦しみが、かれらの人生に創造の活力を与えることを知ることは大切である。傾聴しようと謙虚に努める者にも、人生の創造・再創造のスピリチュアリティに与ることが可能である。
人生を悲しむ者・苦しむ人々を、ただ不運な人・不幸で気の毒な人とレッテ ルを貼り、むしろ正そうとする世間の常識人たちは「悲しみの秘義」の否定者ともいえる。本書はグリーフケアに従事している人々だけでなではなく、前掲の常識を備えた人々にも、ぜひ手にして目に飛び込んでくる濃密な言葉にふれ てもらいたいと願うものである。
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